500円クラウドのベンチマーク
2014年後半ごろからIaaSクラウド各サービスで提供されている、月額500円(ぐらい)のミニマムなクラウドサーバーに対して、ベンチマークテストを行ってみました。
今回の計測対象は、個人的におすすめできる次の4サービス、サーバータイプです。
- IDCFクラウド – 仮想マシン S1
- NTTコミュニケーションズCloudn – 仮想サーバー プランvQ
- Amazon Web Services(AWS) – EC2 t2.nano
- Google Cloud Platform(GCP) – Google Compute Engine(GCE) f1-micro
ベンチマークテストの基本的な条件
計測対象の各サーバーの情報は次のとおりです。
月額料金はサーバーインスタンスとディスクの合計料金です。
サーバー | リージョン ゾーン |
スペック | OS | 月額料金 (税抜) |
IDCFクラウド S1 |
東日本リージョン Radian |
0.8GHz相当 1vCPU, メモリ1GB, ディスク15GB |
CentOS 6.8 | 500円 |
Cloudn プランvQ |
東日本リージョン FLATタイプ jp-e1b |
0.4GHz相当 1vCPU, メモリ0.5GB, ディスク15GB |
CentOS 6.5 | 450円 |
AWS EC2 t2.nano |
東京リージョン ap-northeast-1c |
1vCPU(burst), メモリ1GB, ディスク8GB |
Amazon Linux AMI 2016.03.3 (HVM) |
$8.28 |
GCP GCE f1-micro |
ASIAリージョン asia-east1-b |
Shared CPU(burst), メモリ0.6GB, ディスク10GB(SSD) |
CentOS 6 | $6.3 |
計測日は2016年8月4日、5日です。
ベンチマークテストツールは、サーバー(CPU)性能計測のunixbench、ディスク性能計測のdbenchを使用しました。
dbenchは、同時接続1と4で10分間計測し、スループット値(MB/sec)と、最大レイテンシ(msec)を掲載します。
unixbenchは、unixbench Indexテストのスコアを掲載します。
それぞれのサーバーで2回ずつ計測した結果、値はほとんど変わりませんが、よいほうの値を掲載しました。
ただし、AWS EC2 t2.microについては、CPUクレジットによるバースト機能のON/OFFで、起動直後と2回目の計測で大きく値が異なったので、2回とも結果を掲載しました。
サーバー(CPU)性能 unixbenchの結果
サーバー | single cpu index score |
IDCFクラウド S1 | 448.4 |
Cloudn プランvQ | 947.7 |
AWS EC2 t2.nano(起動直後) | 2085.8 |
AWS EC2 t2.nano(2回目) | 121.5 |
GCP GCE f1-micro | 378.3 |
グラフはこちら。
ディスク性能 dbenchの結果
スループット(MB/sec)
サーバー | dbench 1 | dbench 4 |
IDCFクラウド S1 | 107.715 | 138.656 |
Cloudn プランvQ | 93.385 | 184.696 |
AWS EC2 t2.nano(起動直後) | 183.128 | 452.624 |
AWS EC2 t2.nano(2回目) | 187.595 | 147.840 |
GCP GCE f1-micro | 101.913 | 117.604 |
グラフはこちら。
最大レイテンシ(msec)
サーバー | dbench 1 | dbench 4 |
IDCFクラウド S1 | 156.459 | 437.789 |
Cloudn プランvQ | 1423.989 | 1482.36 |
AWS EC2 t2.nano(起動直後) | 30.883 | 214.625 |
AWS EC2 t2.nano(2回目) | 33.810 | 385.967 |
GCP GCE f1-micro | 469.936 | 738.588 |
グラフはこちら。
考察
予想していたよりも、クラウドサービスごとの違いが出ました。
クラウドサービス、サーバータイプごとの特徴をみてみます。
IDCFクラウド S1
サーバー性能、ディスク性能とも、今回計測したサービスの中では平均的でバランスがよいといえます。
この「稲葉サーバーデザイン」Webサイトは、「IDCFクラウド S1」を使用していてNginx + PHP + MySQLの構成ですが、アクセスがそれほど多くないこともあり、ページ表示速度は全く問題ありません。
Cloudn プランvQ
サーバー性能、ディスクスループット値とも、IDCFクラウドよりよい値なのですが、ディスクのレイテンシ値がダントツで大きいです。
僕はこの「Cloudn プランvQ」のサーバーも1台「SVNサーバー+Redmineサーバー+SSH踏み台」の用途で使っているのですが、コマンドを打っていてときどき引っ掛かる感じがあります。
また、ソフトウェアパッケージのアップデートも時間がかかります。
このため「IDCFクラウド S1」に比べると少し性能が低いな、と感じていましたが、その原因は「ディスクI/Oの遅延が大きい」ことにあるのでしょう。
AWS EC2 t2.nano
とくにサーバー性能で、サーバー起動直後と2回目の計測で大きな違いが出ました。
これは、起動直後はCPUバーストが効いていためよい値で、そのベンチマークテストの処理によりCPUクレジットを使い果たしたので、あまり時間を置かずに実行した2回目のときはベースライン性能となってしまったのでしょう。
CPUバースト時の性能は、t2.nano, t2.micro, t2.smallでほとんど変わらないと思います。
特筆すべきは、ディスクレイテンシ値の低さです。
AWS EC2については、2014年6月にSSDタイプのEBSボリュームがリリースされてから、劇的にサーバー性能がよくなって、かつその性能がバラツキなく安定しているという印象があります。
低レイテンシが性能安定につながっているのでしょうね。
t2タイプはCPUがバーストする時間が限定されていますが、ある程度時間のかかるバッチ処理を定期的に実行しない限り、CPUの高負荷が継続することは実は少ないので、CPUの制限は気にし過ぎなくてもよいと思います。
(t2インスタンスの参考)
・Amazon Web Services ブログ
【AWS発表】バースト可能な性能を持つ新しい低コストEC2インスタンス
http://aws.typepad.com/aws_japan/2014/07/low-cost-burstable-ec2-instances.html
GCP GCE f1-micro
GCPのShared CPUタイプは、AWS EC2のt2インスタンスタイプに相当するものだと思いますが、AWSと違って、サーバー起動直後と2回目の違いはほとんどありませんでした。
※ドキュメントを読むと、「CPUは一時的にバーストする」と書いてあるだけで、AWSのようにCPUクレジットやバーストの仕様は公開されていません。
サーバー性能もディスク性能もIDCFクラウドより少し低い値、という結果でしたが、安定しているといえます。
(GCP Shared CPUインスタンスの参考)
・Google Cloud Platform
Documentation > Compute Engine > Shared-core machine types
https://cloud.google.com/compute/docs/machine-types#sharedcore
まとめ
クラウドサービス4社で提供されている「500円ぐらいのクラウドサーバー」のベンチマークテストを行い、サーバー性能とディスク性能を比較しました。
それぞれのクラウドサービスで、サーバー性能、ディスクのスループット、レイテンシ値に特徴がみられました。
ひとことでいうと、
- バランスのよいIDCFクラウド S1、GCP GCE f1-micro
- ディスク性能が少し低いCloudn プランvQ
- 高性能のAWS EC2 t2.nano(ただし、CPUバーストをキープするのが必須)
といったところでしょうか。
500円クラウドサーバーの使い道としては、
「低スペックでもよいからとにかく低料金で、固定IPアドレスを持った専用サーバーが必要なケース」
ということで、以下などが考えられます。
- アクセスの少ないWebサイト
- サーバー環境構築の練習
- アプリケーション検証環境
- 小人数のプロジェクトサーバー(プロジェクト管理、ファイルサーバーなど)
- アクセス元固定IPアドレスが必要な踏み台サーバー
注意点をあげておくと、データのバックアップとしてディスクボリュームのスナップショットを作成すると、その料金がサーバー料金と同じぐらいかかってしまうことがあります。
例えば、IDCFクラウドのスナップショットの料金は「30円/GB,月」なので、標準15GBのスナップショット1世代保管で、月450円かかります。
(それでも十分安いんですけどね。。)
ですので、僕が利用しているサーバーでは、ファイルベースでtar+gzipでアーカイブして、「$0.03/GB,月」のAmazon S3に3世代保存しています。
また、サーバー保守を外部に依頼すると「1サーバーいくら」で、サーバースペックに関わらずサーバー料金の何倍もの費用がかかってしまいます。
このため「自分でサーバーの面倒を見れること」も大事な条件といえるでしょう。
「自分で面倒を見れないけど月500円ぐらいでサーバーを使用したい」ということであれば、共用のレンタルサーバーがおすすめとなります。
(関連記事)
・新サービスIDCFクラウドのベンチマーク~IDCF従来のサービスやニフティクラウドType-eとの比較
https://inaba-serverdesign.jp/blog/20141031/idcfcloud_benchmark_vs_nifty.html